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はじめてのミクロ経済学 〜経済のしくみと基本的とらえ方

  1. 経済学とは何か
  2. 経済をとらえるための基本的な考え方とキーワード
  3. 消費者(家計)の行動と需要曲線
  4. 生産者(企業)の行動と供給曲線
  5. 市場の均衡
  6. 市場の失敗


1.経済学とは何か 

 経済学とは、経済現象を分析していくときの考え方です。さまざまなアプローチがありますが、前期の講義では、ミクロ経済学について学んでいきます。
 ミクロ経済学は、個々の経済主体の行動に着目し、経済の動きをとらえていこうとする学問です。価格が大きな役割を果たすことから、価格理論と呼ばれることもあります。(一方、後期に学ぶマクロ経済学は、経済の動き全体を俯瞰してみる考え方です。所得理論と呼ばれることもあります。)

 経済とは、定義するならば、財やサービスの生産・分配・流通・消費などの関するすべての働きをさします。
 財ということばは、耳慣れないかもしれませんが、人間生活に必要なモノのうち、形のあるモノのことです。一方、サービスとは、人間生活に必要なモノのうち、形のないモノのことをさします。(例えば、医療や教育、クリーニングなどを思い浮かべてください。) このように、経済学の用語には、日常よく使う言葉と全く同じ言葉であっても、意味合いのかなり違う言葉が数多くありますので、注意が必要です。

 経済学が考察の対象とするのは、厳密に言うと、財のうちでも、経済財と呼ばれる、人間の欲望に対して数が少ないため、売買の対象となるモノです。
 このことからもわかるように、経済学における基本的問題とは、経済的欲望は無限で多様であるにもかかわらず、それに対応するための資源は希少であることです。このため、希少な資源を、いかに効率的に利用するかが問題となります。
 経済学とは、すべての人々の欲望を満たすために、労働・原材料・資本・土地といった有限な資源を利用して、何をつくるのかどのようにつくるのか、そして、その成果を誰に分配するのかを考えていく学問です。


2.経済をとらえるための基本的な考え方とキーワード

経済活動の担い手のことを経済主体といいます。代表的な経済主体には家計、企業、政府があります。

 家計は、企業や政府に労働力(他)を提供し、賃金(他)を受け取り、生活に必要な財・サービスの購入・消費を行う主体です。財市場においては、彼らは代表的な需要者(消費者)として行動します。その行動メカニズム、どういう理由でどのような行動をとるか(何を、どれだけ購入・消費するか)については、3.消費者(家計)の行動と需要曲線で詳しく学びます。

 企業は、家計から購入した労働力(他)を用いて、財やサービスを生産、家計や政府に供給する主体です。財市場においては、彼らは唯一の供給者(生産者)として行動します。その行動メカニズム、どういう理由でどのような行動をとるかについては、4.生産者(企業)の行動と供給曲線で詳しく学びます。家計の場合と異なり、企業の決定は、ある製品を、何をどのように用いて生産するか(生産要素の選択)と、どれだけ生産するか(生産量の決定)の2段階で行われていることに注意が必要です。

 市場経済、すなわち、売り手と買い手が市場で自由に取引を行う経済では、本来は、家計(財市場の場合、買い手)と企業(財市場の場合、売り手)という主体だけでも効率的な運営が成り立つはずです(価格の自動調節機能)。しかし、売り手と買い手だけに任せておくと、現実にはさまざまな問題が生じることがあります。(詳しくは、6.市場の失敗で学びます。)
 政府(中央政府・地方公共団体など)は、いわば調整役として、家計や企業の経済活動基盤を整備・調整するために財政活動を行う経済主体です。

   価格の自動調節機能/市場メカニズム:売り手と買い手が市場で自由に取引を行っても、
   市場での需要と供給の関係によって決まる指標(財市場の場合、価格)に応じて生産者が
   生産量を、消費者が購入量を決定すれば、需要量と供給量が自動的に等しくなるというしくみ。

 これらの経済主体間のやりとりを図示したものが、経済循環図です。経済循環図を理解することは、経済の営みを理解していく上で非常に重要です。

 ここまで、繰り返し、「財市場においては」と書きました。市場とは、あるモノを取引する場、買い手と売り手が出会う場所です。取引されるモノによって、買い手や売り手も異なりますし、そこで決まる指標も異なります。私たちは、家計=消費者と思ってしまいがちですが、これは財市場においてはそうであっても、労働市場では成立しないことだということを忘れてはなりません。


3.消費者(家計)の行動と需要曲線

 財市場において、家計は財やサービスを需要する(必要とし,購入し,消費する)主体です。一方、企業は、財やサービスを供給する(生産し、市場に提供・販売する)主体です。それぞれの行動は,需要曲線,供給曲線として表されます。
 このセクションでは、家計がどのように考えて需要行動を行うのか,その結果,どのような需要曲線が導き出されるのか,学んでいきます。

 ここで、いくつか,断っておくべき点があります。
 前期の講義を通じて,経済主体は”合理的”(理屈に合った)行動をすると想定されています。また、第6セクションまでは、調整役である政府の存在は考られていません。
 これらは、あくまで話を簡単にするための仮定です。中級・上級レベルの経済学(経済原論)では、これらの仮定条件が満たされない場合,これから私たちが学んでいく「基本ケース」がどのように変化するか、何がどのように異なるかを学ぶことができます。
 「基本ケース」は、経済学を学んでいく上でベースになる大事な理論です。ただ、現実の経済がそのような理想的な形で動いていることはまれでしょう。 残念ながら,この講義では、時間的な制約からそれらの内容にはふれられませんが。

 さて、家計の消費行動に着目してみましょう。すると、この行動には2つの要素があることがわかります。ひとつは、家計が使えるお金(予算)には限りがあることです。もうひとつは、家計は満足するために消費を行うのですから,できる限り大きな満足を得るように行動するだろうということです。
 まとめてみますと、 家計は,与えられた予算のもとで、自分の効用(満足度)が最大になるように,消費を行う と考えられます。

 話を簡単にするために,今、ある消費者がある金額のお金(Y)をもって、2つの商品の前でどちらをいくつ購入するか考えている場面を考えてみましょう。なお、その商品の価格はそれぞれP1とP2と決まっているとします。(ここでおいた「仮定」はすべて無理なく一般的な状況に拡張することができます。)
 この消費者が、手持ちのお金すべてを使って購入できる2つの商品の個数(量)を示したものが、予算制約線です。購入量をそれぞれQ1、Q2とすると、Y=P1xQ1+P2xQ2 より
     Q2=Y/P2−(P1/P2)Q1
と表すことができます。
 一方,家計の満足度は無差別曲線により表現することができます。無差別曲線とは、ある一定水準の効用をもたらす2つの商品の組み合わせを表現した軌跡です。無差別曲線は右下がりの、原点に対して凸な曲線になります。無差別曲線は対応する効用水準により1本とは限りませんが,原点より遠ざかるほど,高い効用水準に対応しています。

 これらの設定をまとめてみますと、家計は、予算制約線が、ある無差別曲線に接する点で消費を行うことがわかります。この点(最適消費点)は、予算金額、第1財の価格、第2財の価格が固定されたもとで、その家計にとって最適な第1財の購入量・第2財の購入量を示しています。

 ここで、予算と第2財の価格は固定したまま、第1財の価格をいろいろ変化させたとしましょう。このとき、それぞれの第1財の価格のもとで、この家計にとっての最適な2つの財の購入組み合わせが決まります。このうち、第1財の価格と第1財の購入量にのみ着目してやると、この家計の第1財についての需要曲線を得ることができます。 需要曲線は、予算と他の条件を一定にした場合の、家計にとって最適な、ある財の価格と需要量の組み合わせを示しています。
 需要曲線上の移動と需要曲線のシフトの違いに注意してください。前者は、予算と他の条件は固定されたもとで、価格が変動した場合に家計にとって最適な需要量がどのように変化するかを示しています。 後者は、予算や他の条件(他の財の価格、価格や需要量以外の条件−たとえば、家計の好みやその財を取り巻く環境や技術など)が変化した場合に起こります。

 ● その他のキーワード ●

     所得消費曲線、価格消費曲線、需要の価格弾力性、需要の所得弾力性 など。


4.生産者(企業)の行動と需要曲線

 財市場において、企業は財やサービスを供給する(生産し,提供・販売する)主体です。その行動は、生産要素を購入し、財やサービスの生産を行い、利潤を得るために市場に供給するということができます。その結果は、供給曲線として表すことができます。

 家計の行動基準/目的は「予算の制約のもとで、自らの効用を最大にすること」でした。それに対して、企業の行動目的は、利潤の最大化、または、費用の最小化にあります。

 財を生産するためには生産要素(労働、資本、など)を用います。今、ある財の生産量とそれを生産するために必要な生産要素との技術的な関係(これを生産関数といいます)は一定であるとしましょう。 このとき、企業は、生産関数が示す可能な技術的関係のうちで、もっとも費用が最小になるように(結果的には、利潤が最大になるように)、生産の方法(生産要素の組み合わせ)を決定します。
 このような最適な生産方法の組み合わせは、等費用線に、等量曲線が接する点としてあらわすことができます。
 この点では、等費用線の傾き(労働の価格(賃金率)と資本の価格(利子率)の比)と等量曲線の接線の傾き(労働の限界限界生産力と資本の限界生産力の比)が等しくなっています。 変形すると、労働の限界生産力/賃金率=資本の限界生産力/利子率となりますから、結局、企業にとって最適な生産方法とは、それぞれの生産要素を、1円あたりの限界生産力が等しくなるように投入することだと言えます。 (これを、限界生産力均等の法則と呼びます。)

 それでは、企業にとって最適な生産量はどう決まるでしょうか。
 企業にとっての行動目的は利潤最大化(または費用最小化)で、利潤とは売上(収入)から費用を差し引いたものです。各生産量あたりのそれぞれの動きを考えれば、利潤が最大となる生産量を見出すことができます。
 でも、もっと簡単に最適な生産量を見出す方法があります。それが「費用概念」を用いた分析です。総費用固定費用可変費用に分けて考えると、平均費用(総費用を生産量で割った値)、平均可変費用(可変費用を生産量で割った値)を考えることができます。どのような生産量に対しても、平均費用>平均可変費用となります。また、限界費用(1単位生産量を増やしたときにかかる費用)を考えておきます。
 限界費用曲線、平均費用曲線、平均可変費用曲線はいずれもU字型をしています。限界費用曲線は、その上昇中に、まず平均可変費用の最低点(操業停止点)、次に平均費用の最低点(損益分岐点)を通ります。このうち操業停止点から始まる右上がりの曲線部分が、この企業の供給曲線にあたります。


5.市場の均衡

 財市場において、家計は需要者として、自らの効用最大化を目的に消費行動を行います。一方、企業は利潤最大化を目的に、生産要素の利用の仕方を決め、生産・供給行動を行います。さて、これまで、家計の行動とその結果としての需要曲線、企業の行動と供給曲線を別々に考えてきましたが、実際には、両者は同じ財市場で行動しています。それぞれが自分勝手に行動していて何か不具合は生じないのでしょうか。
 結論は、ある条件のもとでは、No(問題はない)です。家計・企業それぞれの行動を思い出してみると、両者はそれぞれ市場価格を指標として自分の行動を決定しています。ですから、家計と企業が市場価格に合理的に反応して行動する限り、それぞれが独自の目的にしたがったとしても、問題は生じず、市場均衡が自動的に得られるのです。このメカニズムを市場メカニズムあるいは価格の自動調節機能と呼んでいます。
 市場均衡は、家計・企業ともがその状態に満足している点です。そして、また、市場均衡は、社会的余剰が最大となっていることから、もっとも効率的な資源配分が行われている点でもあります。ここで、社会的余剰とは消費者余剰生産者余剰を合計したものです。ここで、消費者余剰とは、ある財に対して、消費者が進んで支払ってもよいと考える最大の金額から、実際に支払った金額を差し引いた額です。また、生産者余剰とは、生産者が実際に受け取った金額から、生産のために必要な額を差し引いた額にあたります。
 さて、先にある条件のもとでと書きました。この条件は完全競争の条件と呼ばれています。 その条件は

  1. 市場には多くの家計と企業が存在し、誰も価格に対し特別な影響力を持たない。   
  2. 企業も、家計も、市場に対する情報は完全である。 (一物一価の法則)   
  3. 複数の企業が同質の財を生産している場合、家計はそれらの財を差別化せず、同一のものとみなす。   
  4. 市場への参入・退出は自由である。
 完全競争が成立している場合、多くの場合、市場メカニズムがうまく働き、効率的な資源配分が行われます。しかし、現実には、上の4つの条件が成立している場合はほとんどありません。このケースを不完全競争と呼んでいます。一方、たとえ完全競争ではあっても、市場メカニズムがうまく働かない場合があります。これを市場の失敗と呼んでいます。
 いずれの場合も、市場にまかせておいては(家計と企業の交渉だけに任せておいては)問題が解決しない場合がほとんどです。このため、政府による解決がはかられることになります。


6.市場の失敗

 市場の失敗とは、厳密には、完全競争の条件が成立しているにもかかわらず効率的な資源配分が行われない場合(狭義の市場の失敗)のことをさしますが、市場メカニズムがうまく作用しない場合と広くとらえ、不完全競争の場合も含んで扱われることもあります(広義の市場の失敗)。いずれにせよ、家計と企業だけにまかせていてはこれらの問題の解決は難しいため、政府の介入がしばしば行われます。

  ■ 不完全競争

 残念ながら、多くの場合、完全競争の条件は成立していません。そのことは、ある財・サービスを生産している企業の数を考えてみればわかります。(たとえば、ビールのメーカ数ーを思い浮かべてください。)このことからも簡単に予想されるように、不完全競争の問題は供給側で生じる場合がほとんどです。
 企業の数に着目して、(広義の)不完全競争の状態を、独占(企業数は1社のみ)、寡占(企業数は少数)、(狭義の)不完全競争(企業数は多数だが,製品の差別化が行われている)に分けることができます。これらの場合、需要の質やその産業への参入条件に問題が生じていないか、その結果、非効率な資源配分が行われていないか、気をつける必要があります。
 独占の場合,独占企業は市場に強い支配力を持ちます。競争相手はいませんから,自分の都合のよい価格や生産量を設定することができます。また、他の企業が市場へ参入しようとしたとき,阻止することもできます。一方,寡占企業は、市場価格に注目して自社の行動を決定するのでなく,少数の競争相手の動向だけに着目することがしばしばです。場合によっては,他社と共謀して、いっそう自分たちにとって都合のよい行動をしようとするかもしれません。また、(狭義の)不完全競争のケースでは,たとえば広告・宣伝といったさまざまな非価格競争により、消費者の主観的な好みに訴えかけようとします。このような生産物差別化の結果、ほぼ同じ商品でありながら,市場に複数の価格がついている状態が起こり得ます。
 これらの不完全競争の市場では,完全競争のときに比べ高い価格設定・需要者を無視した少ない生産量がとられることが多く、また、製品の質には関係のないコストがかかることもしばしばです。結果的に,希少な資源を効率よく利用していくという点から見ると,大きな問題を抱えていることがわかります。
 このような場合,大企業に対し,消費者の力は弱いことが多いため,政府が何らかの規制を行うことがよく見られます。たとえば独占禁止法もその一例です。

  ■ (狭義の市場の失敗)

 □ 外部効果  ある経済主体の行動が,市場を通さずに他の経済主体に影響を与えることを言います。その影響がプラスであるときを外部経済、マイナスであるときを外部不経済とよびます。
  例えば、ある企業がひどいばい煙を排出しながら産出を行っている場合を考えましょう。このとき、周辺の住民は煙の被害を受けますが,この「煙が排出されていること」はその製品の価格に反映されません。このように、企業コストにあたる私的な限界費用とそれに家計が被る負担を加えた社会的限界費用の間には乖離が生じています。このため、企業が利潤を極大にするために自らの限界費用と価格が等しくなるように生産量を決定すると、社会全体に望ましい水準より過大な生産が行われてしまいます。
 この結果、もっぱら私的な限界費用により運営される市場機構にまかせていては、社会的に見てもっとも効率的な資源配分は行われません。
 外部効果を解決するには、1)外部効果の内部化、2)被害者と加害者の直接交渉、といった方法もありますが、一般には、3)税・補助金制度の活用により、政府が、社会的に最適な配分を行う という方法がとられます。

 □ 公共財  公共財とは、@所有権・使用権がない、A消費の集合生がある、という特徴をもつ財です。このとき、所有権をもっていなくても(自分でお金を出して購入しなくても)その財を利用することは可能ですし、一度に多数の人がその財を利用できることになります。その結果、自分が費用を払わず他人の財を使用しようというただ乗り(フリーライダー)が可能となり、たとえその財が皆にとって必要な財であっても、すすんでその費用を負担しようという人はいなくなりますので、供給が過小となります。
 例として、公園を考えてみましょう。あなたはこの町の人ではないから、この公園のブランコに乗れませんよとは言えません。しかし、そうなると、公園の費用をすすんで負担する人はいないでしょうから(皆が、誰かがお金を出して公園のできるのを待つので)、結局、公園建設にかかる費用を誰も負担しないので、公園ができなくなってしまいます。このような場合、政府が、広く薄く集めた税金を用いて、積極的に供給することが要求されます。
 このとき、何をどれだけ供給するか、誰がどの費用を負担するか(負担能力に応じるのか、利益を受ける人が負担するのか)をいかに決定するかが問題となります。これらの決定は、経済学の問題というよりは、社会全体の公正感にかかわることですから、たとえば政治学と言った分野(たとえば、投票による供給量の決定)と関連してきます。

 □ 費用逓減産業  企業にとって最適な生産量は、価格と限界費用が等しくなる水準で決定されます。しかし、巨額の固定費が必要な産業では、そのような点は平均費用をカバーすることができず、利潤が負となるため、が行われません。しかし、これらの産業には社会的に見て必要な場合があるので、@政府が直接管理・運営を行う、または、A(地域)独占的私企業を許し、その行動(とりわけ価格)を政府が規制する という解決法がとられます。
 これらの産業は、一般に、「公益事業」と呼ばれ、たとえば、電力、ガス、水道、鉄道、バスなどが例としてあげられます。